牛のお産 ー正常分娩についてー

おはようございます。ぱぐです。
出産予定日まで1週間をきり、動き回るのが億劫な日々を過ごしています。
そのせいか、体がなまりきって象のような足になってきました。産後の引き締めと産休明けの職場復帰がだいぶ不安ですが、今は無事出産を終えることだけを考えようと思います。

自分のお産が迫ってきたので、ふと寝つけない時間帯に牛のお産について脳内で振り返りをしていました。わたくし、失敗談も多々ございますが、とりあえずは牛の正常分娩についておさらいします^^

牛の正常なお産

牛は種付けしたのち、黒毛和種であれば285日、乳牛であれば280日の妊娠期間を経て出産に至ります。つまり人間とほぼ同じ妊娠期間なんです。親近感わきますね~^^

臨床現場から離れて1年以上経ちますが、当時の肌感覚としては予定日は延びる傾向にありました。獣医師として働いていると、正常なお産よりも難産に出くわすことの方が多いです。母牛に対して胎子が大きすぎる(予定日が延びすぎている)、陣痛が弱く胎子を娩出しきれないなど、様々な状況に出くわします。ただし、ここで気をつけたいのは”もう少し待っていれば正常なお産になったもの”まで難産にしてしまいがちであるということ。一旦お産が始まってしまえば、牛のお産は基本的には”待ち”の姿勢が大切です。一度だけ”正常なお産を待って見守る”ということを体験したことがあります。最後の最後で少しだけ、子牛が出てくるのを介助しましたが、それでも普段行う難産介助からしてみれば待ち時間の圧倒的な長さを感じました。

自分の出産を振り返っても思うのは、胎児の「もう生まれたい!」と母親の「もう産みたい!」という2つのタイミング(ホルモンの作用も含めて)が絶妙にマッチしたお産がいわゆる”安産”になるのかなということです。なんだかスピリチュアルな感じに聞こえるかもしれませんが、出産準備に際していろんなコラムや本を読んだり、Youtubeで発信している人の話を聞いたりして感じたことです。胎児の準備が整っていないときに産ませようとすると出てきづらい体勢かもしれませんし、母親の準備が整っていないと頸管がまだ開ききっていないために結局胎児は出てくるのに苦労します。両者のタイミングが重要です。

牛のお産もその絶妙な2つのタイミングを見極めることが大切なのかなと現場から離れて自ら出産を経験して思うようになりました。これまでは、お産で農家さんから呼ばれたから難産介助する、という単純な流れに偏っていたなぁと。母牛の状態・胎子の状態それぞれをよく理解する必要があります。

①分娩兆候

お産の時期が迫ってくると以下のような兆候を示すようになります。
〇乳房が張り、乳頭につやが出てくる。
〇外陰部が緩んでぽってりと垂れてくる。
〇粘性の高い透明な粘液の漏出が認められる。
〇リラキシンの効果により、骨盤の靭帯が緩み、尾根部の両側が陥没してくる。

そしていよいよ陣痛が始まると、次のような行動が見られます。
●落ち着きがなくなり、牛舎内をうろうろ歩き回る/寝たり起きたりを繰り返す。
●尾をしきりに降る。
●お腹を蹴るような仕草をする。
●排便/排尿を少量頻回するようになる。糞の性状は緩め。

②分娩経過

開口期(第1期)

お産の始まりで、陣痛開始から子宮頚管の完全な拡張までの時期を指します。3~6時間続くと言われているものの、この時期が最も個体差が多く、分娩経過の中で一番時間がかかる時期です。開口期の初期段階では、子宮頚管の内部のデコボコした硬いヒダを触ることができ、最終的には直径30㎝以上に広がっていきます。

この時期に、母子のホルモンの関与のもと、子牛よりも先に子宮頚管を押し広げていくものがあります。それは胎水で満たされた胎膜です。この胎膜は3重構造になっています。一番外側に母牛とつながる胎盤をもった絨毛膜があり、この絨毛膜を裏打ちするように尿膜と羊膜が覆っています。尿膜は母牛の体内にいるときに文字通りおしっこを溜めておく膜で、子牛のへそから出ている管によって子牛の膀胱につながっています。一次破水のときの胎水はこの尿膜水で、尿臭がして粘性のない茶褐色をしています。羊膜は卵白のような粘性のある透明な羊水を満たした膜で、子牛は直接この中に浮かんでいます。子牛のへそから出ている尿膜を裏打ちするように羊膜もへそから出て最も子牛に近い内側で羊水を保持しています。二次破水の際にこの羊膜が破れて羊水が漏出すると、いよいよ子牛の娩出も間近となります。

産出期(第2期)

子牛を包む3つの膜の説明過程で一部産出期については触れているのですが、産出期とは産道(子宮頚管を含め)の完全な拡張から実際に子牛が娩出されるまでの期間を指します。子牛は回転しながら産道へ進入してきますが、産出期の途中ですら子牛のポジション変化(後述)が完了していないこともあります。まず一次破水が起こり、その後二次破水となる流れの方が多いものの、同時に起こることも、逆になることもありますが、いずれも異常ではありません。

本来であれば横になって産出期を迎える牛が多いものの、和牛の場合は警戒心が高いことも多く、立ったまま分娩することが多いと言われています。

後産期(第3期)

子牛の胎膜(=後産)を軽い後陣痛とともに排出する期間です。胎盤の構造上、牛の場合は後産の排出には少し時間を要する場合が多く、子牛の娩出後3~6時間で排出されます。分娩後半日以上経過しても後産が排出しきらない場合には後産停滞という病名がつきます。早産や死産、双子分娩時に多い他、乾乳期の栄養や環境が整っていない場合にも多発するため、産後の母牛に後産停滞が多発する農場はその点を見直す必要があるということになります。

③胎子の状態

開口期初期

頭位(前肢・頭が子宮頚管に近い)

胎子の多くはスフィンクスのポーズで母牛の背側に胎子の前肢がある状態。ここからお産が進むに連れて母牛の背側に頭がくるよう180度回転していきます。胎子の鼻先は子宮頚管の方へ向ききっていなかったり伸びるべき肘などの関節は、産道側に伸びきっていない。

尾位(後肢・尾が子宮頚管に近い)

胎子の多くは横を向いたような格好で子宮内にいます。胎子の足はまだ子宮頚管の方に向ききっていなかったり、伸びるべき膝や球節などの関節は産道側に伸びきっていない状態。

開口期中期~後期

頭位(前肢・頭が子宮頚管に近い)

スフィンクスのポーズで横向き(初期から90度ほど)に回転しつつある状態。胎子の首や足の関節が伸ばされて、蹄の先端、続いて鼻先が母牛の膣の方に進入していきます。

尾位(後肢・尾が子宮頚管に近い)

初期の横向きからやや回転して胎子の背中が母牛の背側に向き始めます。それに伴い後肢全体が伸び、後肢の蹄の先端が膣の方に進入していきます。

開口期後期~産出期

頭位・尾位ともに母牛の背に沿って回転しきり、完全に胎子の背が母牛の背側を向いて首や足の関節は陰門の方へ真っ直ぐに伸びます。足や頭が膣の中に進入すると、陣痛が強くなってきます。頭位であれば前肢の蹄(背側)と鼻先が、尾位であれば後肢の蹄(裏側)が陰門付近で確認できます。

まとめ

牛のお産は開口期(第1期)、産出期(第2期)、後産期(第3期)という3つのフェーズがあり、それぞれ子宮頚管の拡張が完了するまで、子牛を娩出しきるまで、後産を排出しきるまでの期間である。開口期から産出期の半ば(個体によっては終盤)にかけて子牛は回転しながらそのポジションを整えていき、正常な場合は母牛の背側に子牛の背が沿うようなポジションになる。頭と前肢から出てくることの方が多いが、後肢からでてきても異常なことではない。

正常なお産のざっくりとした振り返りでした^^
「横になってお産に臨める牛はお産上手」と聞いたことがありましたが、横になった方が腹圧もかけられるし、効率がいいからでしょうね。確かに不思議と和牛は立ったままお産していたことが多かったような気がします。和牛自体が警戒心が強いのもそうですが、お産のための環境が整っていない可能性もあるんじゃないかなと今回の振り返りで感じました。

牛の正常なお産についての参考文献

『ちょっと待って‼その分娩、本当に子牛の牽引が必要⁉―牛のお産正常・異常とその対処』デーリィ・ジャパン社

年子の出産でブランクが長いので、自分の振り返りもかねて正常なお産についてまとめました。現場に出てすぐの頃の自分に読ませたい書籍ですね。